モルヒネの鎮痛効果を遮断する薬を与えるとプラセボの鎮痛効果がなくなってしまう!?プラセボの摩訶不思議な現象

なんら有効成分のない薬剤でも「効果がある薬だ」と偽って患者に与えると、本当に効果が出てしまうことを「プラセボ効果」という。薬剤だけではく、白衣を着た医師が患者に安心する言葉を投げかけるだけでもプラセボ効果は現われる。他にも、魔術に類する治療の行為者は、このプラセボ効果を利用していることが知られている。「これから行われる処置が自分の肉体や精神に良い効果を与える」と患者が信じた時、プラセボ効果は現われるのだ。

新薬の治験の際、プラセボを投与した対象群と比較するのが一般的な方法だ(二重盲検法)。つまりその新薬は、偽薬より効果があることを証明しなければならないのだ。しかし、過去の数多くの治験データから「プラセボに勝る効果を発揮する」という条件をクリアすることはそれほど簡単なことではないことが分かってきた。プラセボが予想以上に効果を発揮する場合が少なくないからだ。

抗うつ剤とプラセボの効果比較試験

薬名 改善率
イミプラミン 82.5%
ミルタザピン 80.4%
フルオキセチン 76.8%
プラセボ 58.2%

出典 プラセボ効果の吟味と精神療法の再評価 加藤敏(自治医科大学精神医学教室)

そんなプラセボに関する興味深い実験が歯科医によって行われた。

まず、痛みを訴える患者にモルヒネの点滴をする。患者がモルヒネの鎮痛効果を実感したところで、患者に知らせずにモルヒネを生理食塩水にすり替えてしまう。しかし、患者はプラセボ効果により痛みを訴えなかった。ところが、モルヒネの鎮痛作用を遮断する薬、ナロクソンを密かに生理食塩水に混ぜると、患者は痛みがぶり返してきたと訴えた。患者は生理食塩水でもモルヒネと同様の鎮痛作用を得ていて、それがナロクソンにより遮断されたということだ。実験をした歯科医たちは、患者の体内でモルヒネと同じような作用を持つエンドルフィンの分泌が促進されたからだと解釈した。

これだけでも十分不思議な話だけど、現実はもっと複雑だった。モルヒネと全く異なる科学作用で効く鎮痛剤ケトロラックを同じ方法で投与し、生理食塩水にすり替える。その後、ナロクソンを加えても、患者の鎮痛効果は遮断されないのだ。ケトロラックがきっかけで起こったプラセボ効果は、エンドルフィンとは別の体内で分泌される物質によってもたらされていたということだ。

ひとくちに「プラセボ効果」といっても、それぞれが独自の生科学的な仕組みを持つ複雑な作用のようだ。どうやら我々の脳は、あの手、この手で我々をだますことができるらしい。

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