被験者6人が次々に悶絶!ロンドンで起こった臨床試験史上最悪の事故

2018年6月13日

薬の開発に臨床実験は欠かせない。薬を1つ開発するのに、1万人の臨床試験が行われる場合もある。

以前は製薬会社が社内に臨床実験チームを持っていたが、現在、臨床実験はそれを専門的に行っている会社に外注する形で行われていて、世界中で年間5千万人が臨床実験ビジネスに参加している。臨床試験の参加者にはかなりの額の謝礼が支払われる。高額の謝礼を目当てに臨床実験を渡り歩く「プロの人間モルモット」の数は増えていて、その数はおよそ1万人もいるらしい。ある常連被験者は5年間で500日、研究施設に泊まったという。彼らは30日間の「薬抜き期間」も守っていない可能性がある。そんなことを守っていては稼げないからだ。

2006年、ドイツのバイオ企業テジェネロ社が、アメリカの臨床試験会社パレクセルのロンドン支社に新製品のテストを依頼した。ネット広告を見て応募してきた人たちの中から8人が選ばれた。被験者は2日間の臨床試験の間、パレクセルの研究所内で過ごし、その後、数回の検査を受ける予定で、謝礼は2000ポンド(約29万円)だった。

被験者に順番に薬が注射されていった。彼らには事前に軽い頭痛や吐き気を感じるかもしれないと伝えられていた。最後の被験者に注射をしている最中に、先に注射した被験者が「気分が悪い」と訴えはじめ、すぐに彼は大声を出して倒れた。「体が燃える!」とシャツを脱ぎ、苦痛に身をよじった。他の被験者も次々に同じ症状を訴えはじめ、のたうち回りながら医師に助けを求めた。静かな研究所は阿鼻叫喚の場と化した。

2人の被験者が「次は自分の番か?」と恐怖におののきながら立ちすくんでいた。しかしこの2人は無事だった。プラセボを投与されていたのだ。しかし6人は大丈夫ではなかった。呼吸困難に陥り、脈拍数は倍増した。未曾有の緊急事態だった。被験者たちは投与から9時間後には自力呼吸ができない状態になり、多臓器不全に陥った。

12時間後、家族に面会が許された。面会者たちは目を疑った。患者たちの顔や首は2倍の大きさに膨れ上がっていた。体は200キロはありそうな巨漢サイズに膨張し、皮膚は紫色になっていた。最も症状が重かったライアンは、心不全、腎不全、肝不全に敗血症と肺炎を併発し、石のように固くなった。数本の指が切断され、入院は3ヶ月におよんだ。

テジェネロ社が開発したその薬は「モノクローム抗体」というものだった。モノクローム抗体とは、病原体を攻撃する抗体を人工的に再現したものだ。このモノクローム抗体を開発したイギリスなどの科学者たちは、ノーベル賞を受賞している。モノクローム抗体は21世紀の医学にとって大いなる希望なのだ。

モノクローム抗体は細胞分裂を活発化させる性質を持っている。テジェネロ社の新薬は、T細胞と呼ばれる白血球を活発化させるものだった。T細胞を活発に分裂させて免疫システムを増強し、リンパ性白血病の悪性細胞を攻撃させるのが目的だった。しかし免疫システムの過剰反応を引き起こしてしまい、免疫システムは自分の体を攻撃しはじめた。血管に炎症を起こし、内臓を破壊した。被験者が「体が燃えている」と感じたのも不思議ではない。

初めて臨床試験をする薬はまず最初の被験者に投与し、十分に様子を観察してから2人目に投与するのが普通だ。しかしこのケースでは数分おきに投与してしまったため、6人全員が危険な状態に陥った。テジェネロ社は「免疫の過剰反応を示す結果は出ていなかった」と主張した。しかし動物実験の結果は当てにならない。この薬が活発化させるモノクローム抗体はヒトのタンパク質で作られているため、ラットやウサギに使用した時より激しい反応が起こることを想定すべきだった。

テジェネロ社は倒産した。政府による調査が行われ、再発防止策がいくつか提案されたが、責任の所在は明らかにならなかった。臨床試験でのこれほど悲惨な事故はこれまでなかったし、その後、現在まで起こっていない。

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