科学&宇宙ネタ

究極のエセ科学!?常温核融合が再注目されているみたいだ

投稿日:2018年10月26日 更新日:

日本・EU・ロシア・米国・韓国・中国・インドの7カ国が協力してフランスに建設している核融合炉、ITER(国際熱核融合実験炉)。しかし当初の目標に比べ実用化は大幅に遅れている。

人類の夢のエネルギー常温核融合

核融合は人類にとって夢の技術だ。簡単に核融合によりエネルギーが取り出せるようになれば、世界のエネルギー問題は一気に解決してしまう。石油は過去の遺物になり、中東は世界の最貧国に成り下がるだろう。

超高温、超高圧という特殊な環境下で核融合を起こすことは今の技術でも可能だ。しかし超高温、超高圧環境を実現するのは非常に困難で、実際に核融合発電所を作るなんて夢のまた夢というのが現状だ。しかし、そんな核融合が常温でできてしまうとなると話は別だ。エアコンの室外機程度の大きさの核融合機器が無尽蔵の電力を生み出す。常温核融合はそんな夢のような可能性を秘めているのだ。

世界を驚かせたフライシュマンとポンズの実験

1989年3月、ユタ大学は「当大学のマーティン・フライシュマンとスタンレー・ポンズが、室温での持続的な核融合を起こすことに成功した」と発表した。何十年にも渡る努力と何千万ドルという研究費をかけても実現が難しい核融合が、室温で通常の圧力で、ビーカー程度の器具でできたというのだから、世界は騒然となった。

ボンズとフライシュマンの実験器具は本当に簡素なものだった。ビーカーに重水を入れ、その中にパララジウムという金属の棒を浸す。パラジウムの棒の端はバッテリーに繋がれている。バッテリーのもう一方の極はビーカーの中のコイルに繋がれている。バッテリーから出た電流がコイルの中を流れた後、重水の中を通ってパラジウムの棒に流れ込むという仕組みだ。ボンズとフライシュマンの主張によれば、これによって重水素原子がパラジウム原子の間に押し込まれる。そして凝縮の度合いが極限まで高まると、重水素原子が核融合を始め、エネルギーを放出するという。パラジウムが水素を吸収することは知られていた。しかし、パラジウムが大量の水素を吸収すると水素原子が核融合を始めるなどということが、本当にありえるのか? ボンズとフライシュマンは「バッテリーに由来するエネルギーでは説明できないほどビーカーの水温が上昇した。そのエネルギー源は、重水素原子の核融合しか考えられない」と主張した。

当然、世界中の研究所がこの実験の追試を試みた。同年11月、アメリカのエネルギー省は追試の判定を行い、「ユタ大学の発表による過剰熱を支持する研究所も一部あるが、ほとんどの研究所が否定的な結果を報告している」と公式にボンズとフライシュマンの研究結果を否定した。

エセ科学と認定された常温核融合

ボンズとフライシュマンは世界中の科学者から非難を浴び、大学教授の職と名誉を失った。以降、常温核融合はエセ科学扱いされるようになった。サイエンスライターのベネット・デイヴィス曰く「科学界で常温核融合の話をするのは、教会でポルノの話をするのと同じぐらい不適切な行為となった」。

しかし、ボンズとフライシュマンが失脚した後も、常温核融合を研究する学者は少数ながらいた。その中で一番著名なのが、朝永振一郎、リチャード・ファインマンとともにノーベル物理学賞を受賞したジュリアン・シュウィンガーだ。彼は晩年、常温核融合の研究に没頭した。そして、研究成果の論文を米国物理学協会の学会誌に提出したところ、ノーベル賞受賞者にもかかわらず掲載を拒否されてしまった。掲載拒否を決めた学会の幹部は後に「シュウィンガーは気が狂ったに違いないから、彼の威厳を守ろうとして論文を発表させなかった」と語った。

常温核融合に追い風が吹き始めた

風向きが変わったのは2004年だった。この年、アメリカのエネルギー省は「常温核融合に関する計画への助成を個別に認める」と発表した。理由は、ボンズとフライシュマンの実験の追試を行ったマサチューセッツ工科大に於いて、余剰熱の発生が確認されたにもかかわらず、それを発表しなかったことが発覚したからだ。そして2007年、アメリカ海軍の研究員が「常温核融合の実験に於いて、核反応で生成される物質を確認した」という内容の論文を発表。これにより、常温核融合の簡単な実験装置で核反応が起こっていることが明白になった。

日本は凝縮系核反応研究のトップランナー

その後、常温核融合は「凝縮系核反応」と呼ばれるようになった。凝縮系核反応とは、金属内のように原子や電子が多数、集積した状態で元素が変換する現象のこと。名称こそ変わったが常温核融合は序々に再評価され、2010年頃から凝縮系核反応を研究するベンチャー企業が米国やイタリア、イスラエルなどに多数誕生しはじめた。

嬉しいことに日本は、凝縮系核反応研究の分野では世界をリードしているらしい。アイシン精機やトヨタ自動車が出資している技術系シンクタンクの「テクノバ」、ベンチャー企業のクリーンプラネットが出資した東北大学の「凝縮系核反応共同研究部門」などが凝縮系核反応の研究を続け、現在では安定的に過剰熱を発生させることに成功している。実用化に向け、いかにコストを下げて発熱量を増やすかが次の課題のようだ。

まだまだ「エセ科学」とみなされることも多い常温核融合だが、成功した時の見返りはとんでもなく大きいんだから、どれだけ資金をつぎ込んでも研究を続ける価値はある。人類が夢のエネルギーを手にする日は、そう遠くないのかもしれない。

その後、フライシュマンとポンズは共にフランスにあるトヨタ系列の株式会社テクノバの研究所に移り、1995年に退職するまで常温核融合の研究を続けた。フライシュマンは2012年に他界。同年、韓国で開催された第17回国際常温核融合会議では、開会式典においてフライシュマンを偲んで1分間の黙祷が捧げられた。

-科学&宇宙ネタ


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

地球外知的生命は存在するか?

地球外知的生命体は存在するか? 結論はもちろん出ていないけど、個人的には必ずいると思ってる。ってゆーか、いないはずがない。 いない説をとる人たちの最大の主張はこんな感じ。 恒星からちょうど いい距離に …

なぜ柿の種のピーナッツは下にたまるのか?粒状物質の不思議な性質

白く見える物質がピーナッツ。なぜピーナッツが袋の底付近に集まるかは、現代科学では未だ解明されていない。【Image Credit 亀田製菓】 固体でも液体でもない、砂の不思議な性質 砂は固体の粒ででき …

X線で記念撮影!? 放射線の危険性が知られていなかった頃の怖い話

マリー・キュリー(出典 立入禁止!プラモデル35分) 放射線は発見当時、放射線は危険なものとは思われていなかった 我々は放射線が極めて危険なものであることを知っている。しかし放射線が発見された当時、そ …

コップ一杯でヨーロッパが全滅!!史上最強の毒物、ボツリヌスH型

ロシア反政府活動家暗殺に使用された最強の放射性物質ポロニウム210 2006年11月、元ロシア連邦保安庁の職員、アレクサンドル・リトビネンコは、元KGBの職員と会い、紅茶を飲んだ。リトビネンコはロシア …

1で始まる数は30.1%、2で始まる数は17.6%…あらゆる数字を支配するベンフォードの法則

1881年、アメリカ人天文学者のサイモン・ニューカムはある日、科学者がよく使う対数表を見ていて、対数表のページが最初の方ほど汚れていることに気がついた。なぜか人は8や9から始まる数よりも1から始まる数 …