遺伝子&生物ネタ

なぜ多様な生物が存在するのかをゲーム理論で説明してみた

投稿日:2018年9月27日 更新日:

なぜ地球上にはこれほど多様な生物がいるんだろう?

生物は環境に適応したものだけが生き残り、そうでないものは死んでしまう。皆さんご存知の「自然淘汰」というやつだ。ならば「強い生物」の方が「弱い生物」より生き残る確率は高くなる。すると、強くて環境に完璧に適応した究極の生物だけが数を増やし、他の生物は死に絶えてしまうはずだ。しかし地球上には数え切れないほど多様な生物がちゃんと生きている。なぜ進化が一人勝ちのゲームにならないのだろうか? この疑問に「ゲーム理論」を使って答えを出したのが、イギリスの生物学者、メイナード・スミス(1920~2004)だ。

エサを巡って争わない動物がいるのはなぜ?

スミスは1970年代初頭、アメリカのジョージ・プライスという研究者の論文を知る。内容は「動物がエサを求めて競い合う時に、激しく争わないことがあるのはなぜか?」というものだった。自然淘汰が適者だけを生き残らせる法則なら、なぜエサをゆずってしまうような動物が生き残ってこれたのだろう? スミスはこの問題に答えられなかったが、ずっと彼の頭の中には残っていた。その後、スミスはゲーム理論を学び、それを使ってこの問題に答えを出すことに成功した。

ゲーム理論を使って進化の謎を解く

スミスは生物の多様性が存在する証明として『タカハトゲーム』なるものを考案した。

鳥しかいない星があったとする。その星の鳥たちは、鷹のように行動する(攻撃的でエサを巡って常に戦う)こともできれば、鳩のように行動する(常に受身でエサを譲りあう)こともできるとする。仮にこの星の鳥たち全てがタカ戦略を取ったとすると、二羽の鳥がエサを見つけた場合、常にそのエサを巡って争いが起こる。勝った方はエサを食べることができるが、負けた方はエサにありつけないばかりか傷を負って死んでしまう可能性がある。勝った方だって無傷ではいられないかもしれない。どちらにしろ、タカ戦略を取るのは命がけだ。

ある日、そんな鳥たちの中に「こんな争いはまっぴらだ」と考える鳥が現われた。そして彼は、ハト戦略を取ることにした。エサを見つけたら他の鳥がいない時だけエサを食べ、他の鳥がいたら急いで逃げることにしたのだ。このハト戦略を取る鳥はエサを食べ損なうことも多いが、戦って傷を負うことはない。そのうちに、同じようにハト戦略を取る鳥が何羽か現われた。彼らはエサを見つけると分け合って食べた。エサは半分しか食べられないが、傷を負うことはない。この『タカハトゲーム』を元にスミスは「全員がタカ戦略を取るのは進化的に安定した状態ではない」ことに気づいた。もしタカが一羽しかいなかったら、このタカはたらふく食べれて傷を負うこともない。しかしある程度以上タカが存在したら、ハト戦略を取る方が生き残りに有利になるのだ。

タカとハトの比率が1対2が一番安定した状態

ではタカとハトの比率はどのぐらいが適正なんだろう? タカ同士が出会ったとすると、お互いが傷を追うので-2点。タカとハトが出会ったらタカがエサを食べて2点、ハトは逃げて0点。ハト同士が出会ったら両者1点づつとして計算してみると、

タカ ハト
タカ -2 2
ハト 0 1

計算結果はタカが3分の1、ハトが3分の2となる。タカとハトの比率が1対2というのが一番安定する状態だということが分かるのだ。

もちろん自然界は多様な生物がいるので、こんな単純な計算で個体数を表すことはできない。しかし「なぜ自然淘汰の結果が究極の生物の一人勝ちにならないのか」「なぜエサを巡って争わない動物がいるのか」という疑問に、スミスの理論は見事に答えている。

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